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旭川地方裁判所 平成3年(ワ)116号 判決

第一事件被参加人(被告)兼第二及び第三事件原告

兼第四事件被告

株式会社ゼニスプラニング

右代表者代表取締役

橘内利夫

右訴訟代理人弁護士

田澤孝行

右第一ないし第三事件訴訟代理人弁護士

岩本勝彦

右第三事件訴訟代理人、

第一、第二事件訴訟復代理人弁護士

粟生猛

第一事件被参加人(原告・脱退)兼第二事件被告

吉岡光明

第一事件被参加人(原告・脱退)兼第二事件被告

道央緑地株式会社

右代表者代表取締役

吉岡光明

第二事件被告

株式会社サンコー正貫社

右代表者代表取締役

大湯美智雄

右三名訴訟代理人弁護士

米田和正

第一事件参加人兼第三事件被告

北海道興業株式会社

第三事件被告

本間興業株式会社

右両名代表者代表取締役

本間雅範

右両名訴訟代理人弁護士

大塚重親

右訴訟復代理人弁護士

高木常光

第四事件原告

株式会社白樺カントリークラブ

右代表者代表取締役

近田照夫

右訴訟代理人弁護士

岡部信之

村上守

主文

一  (第二事件につき)

1  第二事件被告吉岡光明は、株式会社白樺カントリークラブに対し、別紙物件目録記載一の各土地につき、別紙登記目録記載一1の各仮登記に基づき、昭和五一年七月一日売買を原因とする各所有権移転登記手続をせよ。

2  第二事件被告道央緑地株式会社は、株式会社白樺カントリークラブに対し、別紙物件目録記載二の各土地につき、別紙登記目録記載一2の各仮登記に基づき、昭和五一年七月一日売買を原因とする各所有権移転登記手続をせよ。

3  第二事件被告株式会社サンコー正貫社は、株式会社白樺カントリークラブに対し、別紙物件目録記載一の各土地につき、第二事件被告吉岡光明と株式会社白樺カントリークラブとの間で右一項1の、別紙物件目録記載二の各土地につき、第二事件被告道央緑地株式会社と株式会社白樺カントリークラブとの間で右一項2の、各所有権移転登記手続をすることをそれぞれ承諾せよ。

二  (第三事件につき)

第三事件被告らは、株式会社白樺カントリークラブに対し、別紙物件目録記載一の各土地につき、吉岡光明と株式会社白樺カントリークラブとの間で右一項1の、別紙物件目録記載二の各土地につき、道央緑地株式会社と株式会社白樺カントリークラブとの間で右一項2の、各所有権移転登記手続をすることをそれぞれ承諾せよ。

三  (第一事件につき)

第一事件参加人の第一事件被参加人(被告)に対する請求をいずれも棄却する。

四  (第四事件につき)

第四事件原告の第四事件被告に対する請求をいずれも棄却する。

五  第一事件についての訴訟費用は第一事件参加人の負担とし、第二事件についての訴訟費用は第二事件被告らの負担とし、第三事件についての訴訟費用は第三事件被告らの負担とし、第四事件についての訴訟費用は、第四事件原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(第一事件)

1 第一事件被参加人(被告)は、第一事件参加人に対し、別紙物件目録記載一の各土地につき、別紙登記目録記載四1ないし26の各仮登記所有権移転の仮登記の抹消登記手続を、別紙物件目録記載二の各土地につき、別紙登記目録記載四27ないし31の各仮登記所有権移転の仮登記の抹消登記手続をせよ。

2 第一事件被参加人(被告)は、第一事件参加人に対し、別紙物件目録記載一の各土地及び同目録記載二の各土地を明け渡せ。

3 第一事件被参加人(被告)と第一事件参加人との間で、別紙物件目録記載一及び同目録記載二の各土地の所有権が第一事件参加人にあることを確認する。

4 訴訟費用は第一事件被参加人(被告)の負担とする。

5 2につき仮執行宣言

(第二事件)

1 主文一項同旨

2 訴訟費用は第二事件被告らの負担とする。

(第三事件)

1 主文二項同旨

2 訴訟費用は第三事件被告らの負担とする。

(第四事件)

1 第四事件被告は、第四事件原告に対し、別紙物件目録記載四1ないし48の各物件につき、別紙登記目録記載三1ないし3の各所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

2 第四事件被告は、第四事件原告に対し、別紙物件目録記載四49及び50の各物件につき、真正な登記名義の回復を原因とする各所有権移転登記手続をせよ。

3 第四事件被告は、第四事件原告に対し、別紙物件目録記載一及び同目録記載二の各物件につき、別紙登記目録記載四の各仮登記所有権移転の仮登記の抹消登記手続をせよ。

4 訴訟費用は第四事件被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

(第一事件)

1 主文三項同旨

2 訴訟費用は第一事件参加人の負担とする。

(第二事件―第二事件被告ら)

1 第二事件原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は第二事件原告の負担とする。

(第三事件―第三事件被告ら)

1 第三事件原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は第三事件原告の負担とする。

(第四事件)

1 主文四項同旨

2 訴訟費用は第四事件原告の負担とする。

第二  当事者の主張

(第一事件について)

一  請求原因

1 別紙物件目録記載一の各土地(以下「本件土地(一)」という。)は、第二事件被告吉岡光明(以下「吉岡」という。)がもと所有していた。

2 別紙物件目録記載二の各土地(以下「本件土地(二)」という。)は、第二事件被告道央緑地株式会社(以下「道央緑地」という。)がもと所有していた。

3 第二事件被告株式会社サンコー正貫社(以下「サンコー正貫社」という。)は、売買代金合計五〇〇〇万円で、昭和六二年三月一〇日、本件土地(一)を吉岡から、同日、本件土地(二)を道央緑地から、それぞれ買い受け、同月一一日、右各土地について所有権移転登記をした。

4 第一事件参加人北海道興業株式会社(兼第三事件被告、以下「北海道興業」という。)は、平成二年三月一九日、本件土地(一)及び(二)をサンコー正貫社から、代金五〇〇〇万円で買い受け、同日、右各土地について所有権移転登記をした。

5 本件土地(一)には別紙登記目録記載一1の、本件土地(二)には同目録記載一2の、第四事件原告株式会社白樺カントリークラブ(以下「白樺」という。)への各所有権移転仮登記(以下「本件白樺への仮登記」という。)がなされ、さらに本件土地(一)には別紙登記目録記載四1ないし26の、本件土地(二)には同目録記載四27ないし31の、白樺から第一事件被参加人(被告)株式会社ゼニスプラニング(兼第二及び第三事件原告兼第四事件被告、以下「ゼニス」という。)への各仮登記所有権移転の仮登記(以下「本件ゼニスへの仮登記」という。)がそれぞれなされている。

6 ゼニスは、本件土地(一)及び(二)をゴルフ場として使用して占有している。

7 ゼニスは、本件土地(一)及び(二)を所有していると主張し、北海道興業の所有権を争っている。

8 よって、北海道興業は、ゼニスに対し、本件(一)及び(二)の各所有権に基づき本件ゼニスへの仮登記の各抹消登記手続と本件土地(一)及び(二)の各明渡を求めるとともに、本件土地(一)及び(二)につき、北海道興業に所有権があることの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1及び2は認める。

2 同3及び4のうち、北海道興業主張の各所有権移転登記が存在することは認め、その余は否認する。

3 同5ないし7は認める。

三  抗弁(ゼニスの登記保持権原及び占有正権原)

1 白樺は、昭和五三年六月二七日、本件土地(一)を吉岡から、本件土地(二)及び別紙物件目録記載三の各土地(以下「本件土地(三)」という。)を道央緑地から、それぞれ買い受け、代金の支払方法として、左記(一)及び(二)の債務の履行を引き受けることとした(以下「本件(一)売買契約」という。)。

(一) 昭和五三年三月四日当時、道央緑地が訴外道央信用組合(以下「訴外道央信組」という。)に対して負担していた手形借入金債務三六八九万五八八九円。

(二) 道央緑地が訴外松本利明(以下「訴外松本」という。)及び訴外大崎茂雄(以下「訴外大崎」という。)に対して負担していた別紙登記目録記載二1、2の各根抵当権の被担保債務

2 本件(一)売買契約に基づき、本件土地(一)及び(二)が、吉岡及び道央緑地から白樺にそれぞれ引き渡された。

3 白樺と吉岡及び道央緑地は、昭和五六年八月二〇日、本件(一)売買契約の内容のうち、代金を一億三五〇〇万円に変更し、そのうち八五〇万円の支払と引き換えに所有権移転仮登記をする旨の特約をした。

4 昭和五六年八月二一日、右特約に基づき、本件土地(一)及び(二)について、本件白樺への仮登記がなされた。

5(一) ゼニスは、昭和六二年二月二六日、訴外小田紀夫(以下「訴外小田」という。)との間で、白樺所有の本件土地(一)ないし(三)を含む不動産並びに営業用動産等を代金二億一五〇〇万円で買い受ける旨の契約を締結した(以下「本件(二)売買契約」という。)。

(二)(1) 訴外小田は、本件(二)売買契約の当時、白樺の代表取締役であった。

(2) 仮に、右当時、訴外小田が白樺の代表取締役ではなかったとしても、訴外小田は、白樺の取締役会の選任決議に基づいて、白樺の代表取締役と称して活動していた。

6 右同日、本件(二)売買契約に基づき、本件土地(一)及び(二)が、白樺からゼニスに引き渡された。

7 本件(二)売買契約に基づき、昭和六二年二月二七日、本件土地(一)及び(二)について本件ゼニスへの仮登記がなされた。

四  抗弁に対する認否

1 抗弁1及び同3のうち、本件(一)売買契約の目的土地の範囲について、本件土地(三)が含まれているとの点は否認し、その余は認める。

2 同2及び同4は認める。

3 同5のうち、昭和六二年二月二六日当時、訴外小田が白樺の代表取締役であったとの点は否認し、その余は知らない。

4 同6及び同7は知らない。

五  再抗弁

1 契約解除(抗弁1及び3に対し)

(一) 白樺と吉岡及び道央緑地は、昭和五六年八月二〇日、本件(一)売買契約の売買代金の残代金の支払期限を昭和六一年一二月末日とする旨合意した。さらに、白樺は、昭和六一年一〇月九日、吉岡及び道央緑地に対し、同年一二月二〇日までに代金債務全額について弁済を終える旨通知し、吉岡及び道央緑地はこれを承認した。

(二) 吉岡及び道央緑地は、白樺に対し、昭和六二年一月一六日到達の書面で、右書面到達後一〇日以内に売買残代金を支払うよう催告(以下「本件催告」という。)し、右期間内に支払なき場合は、本件(一)売買契約を解除する旨の意思表示をした。

(三) 同月二六日の経過によって本件(一)売買契約は解除された。

2 営業譲渡の無効(抗弁5(一)、(二)(1)に対し)

(一) 本件(二)売買契約は、白樺によるゴルフ場の運営という営業目的のために組織化され有機的一体として機能する財産、すなわち、ゴルフ場の用地、クラブハウス、什器備品等の全部又は少なくともその重要な一部をゼニスに譲渡することを目的としており、これによって白樺の営業をゼニスが受け継ぐこととなるから、商法二四五条一項一号の営業譲渡に当たる。

(二) 本件(二)売買契約については、商法三四三条に定める白樺の株主総会の特別決議が必要であるところ、これを経ていないから、本件(二)売買契約は無効である。

3 無権限代表行為についての悪意・重過失(抗弁5(一)、(二)(2)に対し)

(一) ゼニスは、本件(二)売買契約の当時、訴外小田に代表権がないことを知っていた。

(二) 仮に知らなかったとしても、当時、近田照夫(以下「訴外近田」という。)が原告となって、白樺に対し、株主総会における訴外小田の取締役選任決議の不存在確認請求訴訟が提起されており、ゼニスは、右訴訟の存在を知っていたか、少なくとも容易に知りうる立場にあったから、訴外小田の代表権の不存在について、悪意と同視しうる重大な過失があった。

六  再抗弁に対する認否及び反論

1 再抗弁1(一)は否認し、同1(二)は認める。同1(三)のうち、解除の効果は争う。

2(一) 再抗弁2(一)のうち、本件(二)売買契約が、白樺所有に係るゴルフ場の用地、クラブハウス、什器備品等を目的としていたことは認めるが、これによって白樺の営業をゼニスが受け継ぐことになるとの点は否認し、商法二四五条一項一号の営業譲渡に当たるとの主張は争う。同(二)のうち、商法三四三条に定める白樺の株主総会の特別決議を経ていないことは認め、その余は争う。

(二) 白樺は、本件(二)売買契約の当時、ゴルフ場運営に行き詰まって資金繰りに窮し、債務整理の必要に迫られていたことから、その資金調達のために、白樺所有に係るゴルフ場の用地、クラブハウス、什器備品等を売却することとしたものであって、ゼニスは、個々の不動産及び動産等を買い受けたものに過ぎず、白樺の債権債務や会員及び従業員等は承継していないし、営業活動も承継していない。また、当時の諸事情からすれば、実質的にも、特別決議は不要であった。

3 再抗弁3(一)は否認する。同(二)のうち、本件(二)売買契約の当時ゼニスが訴外小田についての取締役選任決議の不存在確認請求訴訟の存在を知っていたか少なくとも容易に知りうる立場にあったとの点は否認し、ゼニスに重大な過失があったとの主張は争う。

七  再々抗弁(再抗弁1契約解除に対して)

1 弁済

(一) 白樺と吉岡及び道央緑地は、昭和五六年八月二〇日、本件(一)売買契約の代金一億三五〇〇万円の内、抗弁3記載の八五〇万円を除く残額一億二六五〇万円の支払方法として、白樺が左記の債務の履行を引き受ける旨合意した。

(1) 昭和五一年七月一日当時、道央緑地が訴外道央信組に対して負担していた七六五〇万円の手形借入金債務

(2) 道央緑地が訴外松本及び訴外大崎に対して負担していた別紙登記目録記載二1、2の各根抵当権の被担保債務五〇〇〇万円

(二) 本件(一)売買契約の代金は、昭和六一年一一月一九日までに、以下のとおり全て支払われた。

(1) 白樺は、昭和五六年八月二一日、本件土地(一)及び(二)について、本件白樺への仮登記を受けるのと引き換えに、吉岡及び道央緑地に対し、額面八五〇万円の約束手形五通を振出し交付し、それぞれその支払期日に決済した。

(2) 昭和五一年一二月一七日、当時の白樺の代表者である訴外早勢忠夫(以下「訴外早勢」という。)が、道央緑地の訴外道央信組に対する前記手形借入金債務のうち四〇〇〇万円について、白樺に代わって免責的債務引受をした。

(3) 白樺は、昭和五九年六月六日までに、道央緑地の訴外道央信組に対する手形借入金残債務元利合計三六八九万五八八九円を完済した。

(4) 白樺は、昭和六一年一一月一九日、道央緑地の訴外松本及び訴外大崎に対する前記債務五〇〇〇万円を完済した。

2 過大催告

本件催告は、売買代金の残金として一億二六五〇万円の支払を求めるものであり、現実の残債務額に比して過大であるから、これに基づく解除の効力は認められない。

3 債務不履行の違法性の欠如ないし信義則違反

(一) 吉岡及び道央緑地は、本件(一)売買契約に際し、白樺に対し、本件土地(一)ないし(三)には、訴外道央信組、訴外松本及び訴外大崎のために既に設定されている各根抵当権以外に物権的負担のないことを保証した。

(二) 白樺と吉岡及び道央緑地は、昭和五六年八月二〇日、白樺が本件(一)売買契約の代金債務を完済するのと引き換えに所有権移転の本登記をする旨約した。

(三) しかるに、吉岡及び道央緑地は本件土地(一)につき、さらに道央緑地は本件土地(二)につき、昭和六一年六月一二日、白樺の同意を得ることなく、訴外株式会社谷脇組のために極度額三〇〇〇万円の根抵当権を設定し、旭川地方法務局昭和六一年七月八日受付第一〇二三三号をもってその旨の登記をした。

(四) したがって、本件催告に応じて債務を履行しなかったとしても、右不履行には違法性がないから、吉岡及び道央緑地の解除は無効である。

(五) 仮に、右不履行に違法性がないとまではいえないとしても、右(一)ないし(三)の状況下での本件催告は信義則に反しており、これに基づく吉岡及び道央緑地の解除は無効である。

八  再々抗弁に対する認否

1 再々抗弁1(一)は認める。同1(二)(1)は認める。同1(二)(2)のうち、訴外早勢が昭和五一年一二月一七日に道央緑地の訴外道央信組に対する前記手形借入金債務のうち四〇〇〇万円について白樺に代わって免責的債務引受をしたことは認めるが、その余は否認する。訴外早勢の債務引受は、昭和五一年四月ころに同人個人が道央緑地から購入した本件土地(三)の売買代金四〇〇〇万円の支払に代えてなされたものであり、本件(一)売買契約の代金支払方法としてなされたものではない。同1(二)(3)及び(4)は知らない。

2 同2は争う。

3 同3(一)及び(二)は否認する。同(三)は認める。同(四)及び(五)は争う。

九  再々々抗弁(代金支払方法の変更・再々抗弁1(一)(2)、同(二)(4)に対し)

白樺と吉岡及び道央緑地は、昭和六〇年一二月七日、本件(一)売買契約の代金のうち、白樺が道央緑地の訴外松本及び訴外大崎に対する債務の履行を引き受けることによって支払うものとしていた五〇〇〇万円について、右債務の総額が五〇〇〇万円に満たないため、白樺が道央緑地に直接支払う旨合意した。

一〇  再々々抗弁に対する認否及び反論

再々々抗弁は否認する。仮に、右合意があったとしても、白樺は、前記再々抗弁1(二)(1)ないし(3)のとおり債務のほとんどを履行している上、既に訴外松本及び訴外大崎に対する支払を完了し、これにより道央緑地の債務は消滅しているのであるから、白樺には支払方法に関する約定違反があるに過ぎず、これを理由に本件(一)売買契約を解除することはできない。

(第二事件について)

一  請求原因

1 第一事件の抗弁1に同じ。

2 白樺と吉岡及び道央緑地は、昭和五六年八月二〇日、本件(一)売買契約の内容のうち、契約日を昭和五一年七月一日、代金を一億三五〇〇万円に変更するとともに、そのうち八五〇万円の支払と引き換えに所有権移転仮登記をする旨、さらに残りの一億二六五〇万円の支払方法として白樺が以下の債務の履行を引き受け、その履行完了とともに本登記をする旨の特約をした。

(一) 昭和五一年七月一日当時、道央緑地が訴外道央信組に対して負担していた七六五〇万円の手形借入金債務

(二) 道央緑地が訴外松本及び訴外大崎に対して負担していた別紙登記目録記載二1、2の各根抵当権の被担保債務五〇〇〇万円

3 昭和五六年八月二一日、右特約に基づいて、本件土地(一)及び(二)について、本件白樺への仮登記がなされた。

4 右2の履行引受は、昭和六一年一一月一九日までに、以下のとおりその履行が完了した。

(一) 昭和五一年一二月一七日、訴外早勢が、道央緑地の訴外道央信組に対する前記手形借入金債務のうち四〇〇〇万円について、白樺に代わって免責的債務引受をした。

(二) 白樺は、昭和五九年六月六日までに、道央緑地の訴外道央信組に対する手形借入金残債務元利合計三六八九万五八八九円を完済した。

(三) 白樺は、昭和六一年一一月一九日、道央緑地の訴外松本及び訴外大崎に対する前記債務五〇〇〇万円を完済した。

5 本件土地(一)には旭川地方法務局昭和六二年三月一一日受付第四二二二号をもって、本件土地(二)には同法務局同日受付第四二二三号をもって、それぞれ吉岡及び道央緑地からサンコー正貫社への所有権移転登記がなされている。

6 第一事件抗弁5に同じ。

7 よって、白樺は、吉岡及び道央緑地に対し、本件(一)売買契約に基づく所有権移転登記手続を請求し得るとともに、サンコー正貫社に対し、右登記手続をすることについての承諾を求め得るから、ゼニスは、白樺に対する本件(二)売買契約に基づく本件土地(一)及び(二)についての所有権移転登記請求権を保全するため、白樺に代位して、吉岡及び道央緑地に対して本件白樺への仮登記に基づく昭和五一年七月一日売買を原因とする各所有権移転登記手続をすることを求めるとともに、サンコー正貫社に対して右登記手続をすることについての承諾を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1及び同2のうち、本件(一)売買契約の目的土地の範囲について、本件土地(三)が含まれているとの点は否認し、その余は認める。

2 同3は認める。

3 同4(一)のうち、訴外早勢が昭和五一年一二月一七日に道央緑地の訴外道央信組に対する前記手形借入金債務のうち四〇〇〇万円について白樺に代わって免責的債務引受をしたことは認めるが、その余は否認する。訴外早勢の債務引受は、昭和五一年四月ころに同人個人が道央緑地から購入した本件土地(三)の売買代金四〇〇〇万円の支払に代えてなされたものであり、本件(一)売買契約の代金支払方法としてなされたものではない。同(二)は認め、同(三)は否認する。

4 同5は認める。

5 同6のうち、昭和六二年二月二六日当時訴外小田が白樺の代表取締役であったとの点は否認し、その余は知らない。

三  抗弁(契約解除・請求原因1及び2に対し)

1 第一事件再々々抗弁に同じ。

2 第一事件再抗弁1(一)ないし(三)に同じ。

四  抗弁に対する認否

第一事件再々々抗弁に対する認否及び再抗弁1(一)ないし(三)に対する認否に同じ。

五  再抗弁

1 過大催告

第一事件再々抗弁2に同じ。

2 債務不履行の違法性の欠如ないし信義則違反

第一事件再々抗弁3(一)ないし(五)に同じ。

3 権利濫用

仮に、抗弁1の事実が認められるとしても、白樺は、債務のほとんどを履行している上、既に訴外松本及び訴外大崎に対する支払を完了し、これにより道央緑地の債務は消滅しているのであるから、白樺には支払方法に関する約定違反があるに過ぎず、これを理由に本件(一)売買契約を解除することは権利の濫用である。

六  再抗弁に対する認否

全て争う。

(第三事件について)

一  請求原因

1 第二事件請求原因1(第一事件抗弁1)に同じ。

2 第二事件請求原因2に同じ。

3 第二事件請求原因3に同じ。

4 第二事件請求原因4に同じ。

5(一) 本件土地(二)のうち5の土地には、旭川地方法務局平成二年三月一九日受付第四四一八号をもって、その余の本件土地(一)及び本件土地(二)には、同法務局同日受付第四四二二号をもって、それぞれサンコー正貫社から北海道興業への所有権移転登記がなされている。

(二) 本件土地(一)及び(二)には、旭川地方法務局平成二年八月九日受付第一三一一〇号をもって、それぞれ第三事件被告本間興業株式会社(以下「本間興業」という。)のために根抵当権設定登記がなされている。

6 第二事件請求原因6(第一事件抗弁5)に同じ。

7 よって、白樺は、北海道興業及び本間興業に対し、吉岡及び道央緑地との間で本件(一)売買契約に基づく所有権移転登記手続をすることについての承諾を求め得るから、ゼニスは、白樺に対する本件(二)売買契約に基づく本件土地(一)及び(二)についての所有権移転登記請求権を保全するため、白樺に代位して、北海道興業及び本間興業に対し、白樺と吉岡及び道央緑地との間で本件白樺への仮登記に基づく昭和五一年七月一日売買を原因とする各所有権移転登記手続をすることについての承諾をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1及び同2のうち、本件(一)売買契約の目的土地の範囲について、本件土地(三)が含まれているとの点は否認し、その余は認める。

2 同3は認める。

3 同4(一)のうち、訴外早勢が昭和五一年一二月一七日に道央緑地の訴外道央信組に対する前記手形借入金債務のうち四〇〇〇万円について白樺に代わって免責的債務引受をしたことは認めるが、その余は否認する。訴外早勢の債務引受は、昭和五一年四月ころに同人個人が道央緑地から購入した本件土地(三)の売買代金四〇〇〇万円の支払に代えてなされたものであり、本件(一)売買契約の代金支払方法としてなされたものではない。同(二)及び(三)は知らない。

4 同5は認める。

5 同6のうち、昭和六二年二月二六日当時訴外小田が白樺の代表取締役であったとの点は否認し、その余は知らない。

三  抗弁(契約解除・請求原因1に対し)

1 第二事件抗弁1(第一事件再々々抗弁)に同じ。

2 第二事件抗弁2(第一事件再抗弁1(一)ないし(三))に同じ。

四  抗弁に対する認否

第二事件の抗弁に対する認否に同じ。

五  再抗弁

1 過大催告

第二事件再抗弁1(第一事件再々抗弁2)に同じ。

2 権利濫用

第二事件再抗弁3に同じ。

六  再抗弁に対する認否

全て争う。

七  代位原因(請求原因6)に対する被告らの主張

1 営業譲渡の無効

第一事件再抗弁2(一)、(二)に同じ。

2 無権限代表行為についての悪意・重過失

第一事件再抗弁3(一)、(二)に同じ。

八  代位原因に対する被告らの主張に対する反論

1 営業譲渡について

第一事件再抗弁に対する認否及び反論2(一)、(二)に同じ。

2 無権限代表行為について

第一事件再抗弁に対する認否及び反論3に同じ。

(第四事件について)

一  請求原因

1 白樺は、本件土地(三)を含む別紙物件目録記載四の各不動産(以下「本件不動産(四)」という。)並びに本件土地(一)及び(二)をもと所有していた。

2 本件不動産(四)には、別紙登記目録記載三のとおりゼニスへの所有権移転登記ないし共有者全員持分全部移転登記が、本件土地(一)及び(二)には、本件ゼニスへの仮登記がそれぞれなされている。なお、本件不動産(四)のうち49及び50の不動産は、いずれも元の共有者である川島一泰、栗林建治、伊与木(登記簿上は伊與木)尚利及び山元弘から白樺が買い受けたものであるところ、白樺への所有権移転登記を中間省略し、別紙登記目録記載三4のとおり、右元共有者らからゼニスへの共有者全員持分全部移転登記がなされた。

3 よって、白樺は、各所有権に基づき、ゼニスに対し、本件不動産(四)のうち1ないし48の各不動産につき別紙登記目録記載三1ないし3の各所有権移転登記の抹消登記手続を、本件不動産(四)のうち49及び50の各不動産につき真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を、本件土地(一)及び(二)につき本件ゼニスへの仮登記の各抹消登記手続をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

全て認める。

三  抗弁(所有権喪失)

1 ゼニスは、昭和六二年二月二六日、訴外小田との間で、白樺所有の本件土地(一)、(二)及び本件不動産(四)並びに営業用動産等を代金二億一五〇〇万円で買い受ける旨の契約を締結した(以下「本件(二)売買契約」という。)。

2(一) 訴外小田は、本件(二)売買契約の当時、白樺の代表取締役であった。

(二) 仮に、右当時、訴外小田が白樺の代表取締役ではなかったとしても、訴外小田は、白樺の取締役会の選任決議に基づいて、白樺の代表取締役と称して活動していた。

四  抗弁に対する認否

1 抗弁1のうち、代金額は否認し、その余は認める。代金額は二億二五〇〇万円であった。

2 同2(一)は否認する。訴外小田は、昭和六〇年三月三一日に任期満了により代表取締役の地位を喪失した。同(二)は否認する。

五  再抗弁

1 営業譲渡の無効(抗弁1、2(一)に対し)

第一事件再抗弁2(一)、(二)に同じ。

2 無権限代表行為についての悪意・重過失(抗弁1、2(二)に対し)

(一) ゼニスは、本件(二)売買契約の当時、訴外小田に代表権がないことを知っていた。

(二) 仮に知らなかったとしても、当時、訴外近田が原告となって、白樺に対し、株主総会における訴外小田の取締役選任決議の不存在確認請求訴訟が提起されており(平成元年五月に、訴外近田勝訴の判決が確定した。)、本件(二)売買契約に際して白樺側として関与した訴外小田らは当然に右訴訟の存在を知っていて、ゼニスにこれを告げるはずであるから、ゼニスは、本件(二)売買契約の当時、右訴訟の存在を知っていたか、少なくとも容易に知りうる立場にあったので、契約に際しての事前調査を著しく懈怠しており、訴外小田の代表権の不存在について、悪意と同旨しうる重大な過失があった。

六  再抗弁に対する認否及び反論

1 再抗弁1に対する認否及び反論は、第一事件再抗弁に対する認否及び反論の2(一)、(二)に同じ。

2(一) 再抗弁2(一)は否認する。同(二)のうち、前記訴訟の存在及び訴外近田の勝訴の判決が確定したことは認めるが、本件(二)売買契約の当時ゼニスが右訴訟の存在を知っていたか、少なくとも容易に知りうる立場にあったとの点は否認し、ゼニスに重大な過失があったとの主張は争う。

(二) ゼニスは、商業登記を信頼して訴外小田と契約したのであり、本件(二)売買契約当時は右訴訟の存在を知らなかったし、訴外小田から告げられない以上、容易に知りうる状況にもなかった。

七  再々抗弁(信義則違反・再抗弁1に対し)

1 ゼニスは、本件(二)売買契約の締結前から、白樺の代表取締役であった訴外小田をはじめ、白樺ゴルフクラブの理事長山元弘、常務理事栗林健治、同伊与木尚利らから、白樺の発行済株式二万株はすべて訴外小田が所有していると聞かされていたため、そのように(したがって、株主総会による決議も不要であると)信じたが、この点に落度はない。

2 白樺の現在の代表取締役である訴外近田は、本件(二)売買契約の当時から白樺の株主で、全株式の所有を主張していた者であり、しかも白樺に対して昭和六〇年に株主総会における訴外小田の取締役への選任決議の不存在確認の訴えを提起していたのであるから、訴外小田の代表取締役としての職務執行停止の仮処分を申し立てるなどして訴外小田の専断的な行動に対処すべきであったのに、訴外小田が代表取締役としてなす内部的、外部的業務を放置していた。

3 右のような状況の下で、白樺が、事後に白樺自身の詐欺的行為や現在の代表取締役訴外近田の権利不行使を奇貨として、総会決議の不存在を理由に本件(二)売買契約の無効を主張することは、信義則に反して許されない。

八  再々抗弁に対する認否及び反論

1 再々抗弁1は知らない。

2 同2のうち、訴外近田が本件(二)売買契約の当時から白樺の株主で全株式の所有を主張していたこと、訴外近田が昭和六〇年に白樺に対して株主総会における訴外小田の取締役への選任決議の不存在確認の訴えを提起したことは認めるが、その余は否認する。

3 同3は争う。訴外近田は、本件(二)売買契約の当時から自己の正当な権利を主張して争っていたのであるから、信義則違反の主張は失当である。

第三  証拠

本件記録中の書証目録及証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一  第一事件について

一  請求原因について

請求原因1、2、5、6、7の各事実及び3のうち、本件土地(一)について吉岡からサンコー正貫社への、同4のうち、本件土地(二)について道央緑地からサンコー正貫社への各所有権移転登記がなされている事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  ゼニスの登記保持権原及び占有正権原(抗弁)について

1  争いのない事実

抗弁1及び3については、本件土地(三)が本件(一)売買契約の目的土地の範囲に含まれるとの点を除き、当事者間に争いがない(なお、本件土地(三)が本件(一)売買契約の目的土地に含まれるか否かの点は右抗弁の成否とは直接関係ないので後に認定、判断する。)。また、抗弁2及び4の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

2  本件(二)売買契約の締結(抗弁5(一))について

証拠(乙ロ一ないし五、乙ロ一五ないし二五、乙ロ二七、乙ロ三〇ないし一一一、乙ロ一一三、乙ハ五の1〜5、乙ハ七、八、証人小田紀夫、同帰山隆至、同近田照夫(一回、二回))及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、右認定事実によると、訴外小田とゼニス間で、本件(二)売買契約が締結されたこと(抗弁5(一)の事実)を認めることができる。

(一) 白樺の設立以来の状況

(1) 本件土地(一)ないし(三)を含む土地がゴルフ場として造成されるに至った経緯は、昭和四九年一一月二日に、中央興産株式会社が開発行為の許可を受けて工事に着手したことに始まるが、同社が工事途中で計画を断念し、次いで、右工事を引き継いだ株式会社函東建機も途中で工事を中断するに至ったことから、昭和五一年七月ころ、訴外早勢が実質上のオーナーとなってこれを引き継ぐこととなり、同年八月一四日、自ら代表取締役となって白樺(当時の商号は「株式会社鷹栖平原ゴルフクラブ」)を設立した。

(2) 白樺の経営するゴルフコースは、昭和五二年九月一八日に最初の九ホール(インコース)がオープンし、昭和五四年七月一日に残りの九ホール(アウトコース)がオープンした(以上の本件土地(一)ないし(三)を含む土地、具体的には本件土地(一)、(二)及び本件不動産(四)をゴルフ場用地等とするゴルフコースを、以下「本件ゴルフ場」という。)。白樺は、本件ゴルフ場を「旭川白樺国際カントリークラブ」との名称(以下単に「白樺ゴルフクラブ」ともいう。)で運営し、訴外小田は、昭和五四年ころ、白樺の取締役となり、白樺ゴルフクラブの支配人として現場の運営の責任者となった。

(3) 白樺設立当初ころの株主構成は、昭和五一年一〇月末ころにおいて、発行済株式二万株のうち、訴外早勢と訴外近田がそれぞれ一万株ずつ保有していたが、昭和五八年一〇月ころ、設立以来白樺の代表取締役であり、実質上のオーナーであった訴外早勢の経営する早勢建設工業株式会社(以下「早勢建設」という。)が事実上倒産し、その関連会社であった訴外近田(当時、白樺の専務取締役)の経営する大東ブロック工業株式会社(以下「大東ブロック」という。)も資金繰りが悪化するに至った(その後、昭和六〇年七月ころ事実上倒産)。そこで、白樺が早勢建設の倒産や大東ブロックの経営悪化による影響を受けないようにするため、同年一一月ころ、訴外早勢、訴外近田、訴外小田が話し合って、訴外早勢が白樺の代表取締役を退任し、訴外小田が白樺の代表取締役に就任することとなった(取締役は訴外小田、訴外近田、訴外近田セイの三名)。その際、訴外早勢は、自己が所有していた白樺の株式一万株を訴外小田に売り渡したが、訴外早勢は、これより先に近田に対しても、債務保証等をしてもらっていたことから、同年一〇月一五日付けで(ただし、確定日付は同年一一月一九日)右株式一万株を譲渡した。

(二) 豊田ゴルフクラブへの身売り話

(1) 昭和五九年四月末ころ、ゴルフシーズンが始まり白樺ゴルフクラブはコースオープンした。ゴルフ場自体の入場者数は例年並であったが、白樺の従前からの負債が多額に上り(昭和五八年末段階で、約七億二〇〇〇万円余、他に会員権預かり保証金返還債務分として約七億五八六〇万円。)、資金繰りは常に苦しい状況であった。

(2) 右のように、白樺については経営が常に危機的な状況であったため、昭和五九年夏ころから数度にわたり、本件ゴルフ場その他一切の施設等を資力のある他の経営者に売却しようとの身売り話が持ち上がり、訴外小田と訴外近田は、相談の上、条件次第では白樺を売却することもやむを得ないと考えるようになった。

(3) その後、昭和六〇年三月ころから、株式会社豊田ゴルフクラブ(以下「豊田ゴルフクラブ」という。)への身売り話が急速に進展し、訴外小田は、豊田ゴルフクラブと売却についての交渉を行なった結果、同年五月には売却条件について大筋で合意に達したので、同月八日、白樺の常務理事会において、その内容の説明を行ったところ、その場で基本的な了解が得られた。また、訴外近田もこれに賛同し、訴外小田に対し、自己所有に係る白樺の株式の譲渡契約を含めた最終契約書作成までの交渉を委ねた。しかし、その後、訴外近田は、自己所有株式の譲渡代金の決済方法等についての契約条項が了承できないとして、右株式譲渡の意思を翻意し、その旨を訴外小田に告げたが、訴外小田は、訴外近田が一旦は右売却に了承したといった従前の経緯やその当時の白樺の経営状況、豊田ゴルフクラブが会員保護を約束してくれたことなどから、訴外近田の同意は得られているものと安易に考えて契約締結を急ぎ、同月一五日、豊田ゴルフクラブとの間で、同社に対し、白樺の全株式を譲渡する旨の契約を締結した。

(4) その後、豊田ゴルフクラブは、豊田商事の崩壊とともに破産し、訴外小田は、昭和六一年一一月ころ、豊田ゴルフクラブ破産管財人から、白樺の株式全部を一五〇〇万円で買い戻した(ただし、前述のとおり、右株式のうち少なくとも近田が当初から所有していた一万株については、豊田ゴルフクラブへの株式譲渡契約時に訴外小田にこれを譲渡する権限があったとはいえず、豊田ゴルフクラブに対する譲渡の効力が生じていないので、これを買い戻しても訴外小田は有効にこれを取得することはできない。残りの一万株については、訴外早勢からの二重譲渡の問題が解決(対抗要件の具備)した段階で決着することとなる。)。

(5) 訴外小田が、豊田ゴルフクラブから白樺の株式を買い戻した後も、白樺の経営は依然として苦しく、大口債権者からの支払の督促が続いていた上、本件ゴルフ場用地の一部については競売が開始され(大平興業株式会社(以下「大平興業」という。)申立昭和五七年七月二一日当庁競売開始決定、シティコープ・クレディット株式会社(以下「シティコープ」という。)申立昭和五九年二月六日当庁競売開始決定、訴外松本及び訴外大崎申立昭和六一年九月八日当庁競売開始決定)、昭和六一年末ころには落札されるおそれもでてきて、経営危機は深刻な状況となっていた。そして、その間にも、何度か身売りの話が進められたが、結局は条件面での折り合いがつかずまとまらなかった。

(三) 本件(二)売買契約の経緯

(1) 昭和六一年一二月ころ、当時白樺ゴルフクラブの会員であった目良歩の紹介により、白樺のゼニスへの身売り話が持ち上がった。昭和六一年一二月三一日時点での白樺の債務状況は、土地関係、支払手形、借入金等の債務が約六億六五九〇万円(そのうち、土地関係の債務は約四億九四六〇万円)、その他に会員権預かり保証金返還債務分が約七億八八〇〇万円で、依然として深刻な経営危機状態が続いていた。

(2) 白樺とゼニスの一回目の折衝は、昭和六一年一二月暮れころに行われ、白樺側は代表取締役として訴外小田が当たり、ゼニス側は、常務(登記簿上は監査役)の帰山隆至らが当たった。二回目の折衝は、昭和六二年一月初めころ行われ、その後、両者の間で売却についての具体的な条件が話し合われた。白樺側の要求事項の主な点は、ゼニスが新たな経営者となった以後の白樺ゴルフクラブの会員(白樺に対して入会金、預託金等を支払い、本件ゴルフ場において会員料金でゴルフプレーができる等の優待的な諸権利を有する者、以下単に「白樺会員」ともいう。)の保護、ゴルフコース、クラブハウス等の施設の整備であったところ、ゼニス側においてこれを受け入れたことから、白樺としてゼニスに売却することとし、白樺ゴルフクラブの常務理事会の賛同も得て、同月二三日、白樺側では訴外小田の他、白樺ゴルフクラブの会員代表として、同理事会の常務理事である栗林健治、伊与木尚利らが立会い、白樺、ゼニス間で売買契約締結に向けての基本的了解事項を定めた協定書(乙ロ一)が作成された。

(3) 昭和六一年一月二三日に作成された協定書の合意条項の要旨は、①国土法の届出の効力の発生を条件として、本件ゴルフ場の土地、建物、機械、器具、什器、備品並び営業権を二億五〇〇〇万円で売買する、②本件(二)売買契約に関する交渉金として同日ゼニスが白樺に五〇〇〇万円交付する、③白樺はただちに国土法の届出の申請等の手続をなし、売買契約及び所有権移転登記がスムーズに進行するよう取り計らうとともに、吉岡名義及び道央緑地名義の土地について、白樺においてスムーズに引き渡すよう取り計らう、④シティーコープが根抵当権者となって現在競売手続進行中の不動産については、本件(二)売買契約の際の価額に算定せず、ゼニスの負担において取得までの手続をする、⑤ゼニスは、白樺が白樺会員に負担する預託金返還債務等の債務を一切負わない、⑥ただし、白樺会員のプレーする権利については、協議のうえ別途協定するというものであった。ところで、右売買代金額の決定に当たっては、当時白樺が負担していた債務の総額約六億円(乙ロ二三添付の別表「(株)白樺カントリークラブ債務内譯」参照)を売買当事者間でどのように振り分けるかを検討し、その結果、白樺側で、土地関係以外の債務(支払手形、借入金、仮受金、未払い金)及び土地関係のうちの訴外松本及び訴外大崎に対する債務(登記簿上の極度額五〇〇〇万円)、山元弘他三名に対する債務(一四〇〇万円)を、ゼニス側で、その余の全ての土地関係の債務(大平興業一億円、シティコープ二億二三〇〇万円、湯浅金物株式会社二〇〇〇万円、東京造営株式会社四〇〇〇万円、栄信企業株式会社一〇〇〇万円、訴外道央信組三七六〇万円等)をそれぞれ負担することとし、白樺がその負担する債務の支払を確保できるよう売買代金額が二億二五〇〇万円と決められた。

(4) 本件(二)売買契約の内容

昭和六二年二月二六日、白樺側からは、代表取締役として訴外小田の他、白樺ゴルフクラブ理事会から理事長の山元弘、常務理事の栗林健治、川島一泰が出席し、ゼニス側からは、代表取締役橘内利夫、本件(二)売買契約の交渉を担当した帰山隆至らが出席し、立会人として目良歩が同席した上、本件(二)売買契約が正式に締結され、「不動産売買並びに営業譲渡契約書」と題する書面(乙ロ二)が作成された(なお、訴外小田は、個人としても、白樺の本件(二)売買契約上の債務につき連帯保証した。)。

右契約書の具体的内容の要旨は、左記のとおりである。

第一条 売買の目的物の範囲は、①白樺が経営する本件ゴルフ場の営業、②本件ゴルフ場が使用占有する不動産(本件土地(一)、(二)及び本件土地(三)を含む本件不動産(四))、③本件ゴルフ場の什器、備品、機械、器具等の営業用動産一切及び電話加入権とする。

売買代金は、二億二五〇〇万円(その内訳は、土地代金九五〇〇万円、建物代金五〇〇〇万円、営業権及び什器備品一切八〇〇〇万円)とする。

第二条 ゼニスは、本件(二)売買契約締結と同時に白樺に売買代金二億二五〇〇万円を支払い、白樺はこれを受領した。

第三条 白樺は、第一条の売買の目的物引渡にあたり、連帯保証人とその完全なる引渡を行い、本件(二)売買契約締結日に可能な限りの所有権移転登記申請手続に要する書類の引渡をする。その後においても、ゼニスにおいて、所有権移転登記手続に必要な書類が生じたときは、白樺はその協力をする。

第四条 白樺及びその連帯保証人は、白樺名義の所有権移転仮登記がなされている土地について必要な書類を引渡し、ゼニスへの速やかな所有権移転登記を連帯して保証する。また、根抵当権者訴外道央信組及び大平興業との交渉を速やかにおこなう。

第五条 本件(二)売買契約は、白樺が現に占有する本件ゴルフ場敷地内に存する白樺の土地建物一切をゼニスに売り渡すことを目的とするものであり、後日本件ゴルフ場内に本件(二)売買契約の目的物以外の土地が存することが判明したときは、白樺及びその連帯保証人は、無償にてゼニスに提供し、所有権移転登記手続をする。

第六条 本件ゴルフ場内の立木、石、その他の附属物はゼニスの所有に属するものとする。

第七条 白樺が白樺会員に負担する預託金返還債務及びその他の一切の債務について、ゼニスは一切責任を負わない。

第八条 所有権移転登記手続に要する登録免許税などの手続費用はゼニスの負担とし、本件(二)売買契約の目的物の売り渡しに要する変更登記などの手続費用は白樺の負担とする。なお、契約書に貼付する印紙税は、白樺、ゼニスの折半により負担する。また、本件(二)売買契約の締結日以後の固定資産税などの本件(二)売買契約の目的物に関する公課は、ゼニスにおいて負担する。

第九条 本件(二)売買契約成立後、本契約の各条項に違反した場合、白樺に対する担保権者その他の債権者及び白樺から破産手続(自己破産も含む。)及びその他の法的手続(ゼニスに対する法的手続を含む。)がなされた場合、白樺及び連帯保証人は、売買代金全額を直ちに返還するとともに、その売買代金の七割に相当する損害金を支払う。

さらに、白樺は、同日、ゼニスに対し、①本件(二)売買契約の目的物のうち、白樺名義の仮登記がなされている土地について、吉岡及び道央緑地を相手方として、本件(二)売買契約締結後直ちに訴訟手続を行うこと。②裁判の結果ゼニスに対する所有権移転登記手続が不可能となった場合及び根抵当権者株式会社谷脇組の根抵当権の抹消が不可能となった場合には、ゼニスから契約を解除されても異議がなく、解除後は、白樺及び連帯保証人は、売買代金全額を直ちに返還し、売買代金の七割に相当する損害金を支払うことを約束し、栗林健治、伊与木尚利(栗林が代理人として署名)、山元弘、川島一泰、訴外小田がゼニスに対して右債務を連帯保証した確約書(乙ロ三)を差し入れた。

(五) 変更契約について

本件(二)売買契約後、訴外近田からゼニスに対し、訴外小田、村崎俊及び葛西利充ら当時の白樺の会社登記簿上の役員は、白樺について無権限であるから、本件(二)売買契約は無効であり、現在株主総会における右役員選任決議不存在確認の訴えを提起している旨の通告書(乙ロ二二)が内容証明郵便で送られてきたこと、また、本件ゴルフ場クラブハウス内の食堂について、従前の経営者である近田セイとの立ち退き交渉がうまくいかなかったことなどから、ゼニスは、昭和六二年四月からのシーズンの本件ゴルフ場の運営を断念するに至った。

そのため、ゼニスと白樺は、昭和六二年四月三日、右の制裁として、売買代金を一〇〇〇万円減額することを合意し、その旨の変更契約書(乙ロ四)を作成したが、その際、右売買代金の内訳については、土地代金九五〇〇万円、建物代金五〇〇〇万円、動産類七〇〇〇万円とした。

3  訴外小田の代表権(抗弁5(二)(1))について

(一) 前記証拠(乙ロ二〇ないし二二、乙ロ二五、乙ロ一一一、乙ロ一一三、乙ハ八、証人小田紀夫、同近田照夫(二回))及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 白樺の取締役及び代表取締役については、昭和五八年一一月二四日付けで、訴外小田、訴外近田、近田セイの三名が取締役に、訴外小田が代表取締役に選任され、その旨登記されていたところ、その後、昭和六〇年五月一四日まで、登記事項の変更はなく、内部的にも、その地位を巡っての紛争は一切なかった(なお、白樺の定時株主総会ないし臨時株主総会が開催されていたか否かは明らかではない。)。

(2) 昭和六〇年五月一四日、訴外小田は、同日以前に取締役会における株主総会の招集決議(商法二三一条)もなく、株主(当時の株主構成については、前述のとおり。)に対する招集通知(同法二三二条)も一切なく、かつ、現実には全く株主総会が開催されていないのに、同日午後三時に白樺の本店において白樺の臨時株主総会が行われたとして、「臨時株主総会議事録」と題する書面等(乙ロ二一)を司法書士に依頼して作成させた。訴外小田は、前記豊田ゴルフクラブへの白樺の株式譲渡契約に伴い、白樺の役員変更登記申請をする目的で作成した右各書面を添付して、同月一五日、白樺の取締役、代表取締役及び監査役の変更登記手続を行い、訴外小田、村崎俊、葛西利充の三名が取締役に、三浦進が監査役に、訴外小田が代表取締役に就任した旨の登記がなされた。

(3) 訴外近田は、昭和六〇年五月、当庁に、白樺を被告として、同月一四日開催の臨時株主総会における取締役として訴外小田、村崎俊、葛西利充を、監査役として三浦進をそれぞれ選任する旨の各決議は存在しないことの確認を求める訴えを提起し(昭和六〇年(ワ)第二四一号株主総会決議不存在確認請求事件)、昭和六三年一一月二九日勝訴判決をえた。右判決は、平成元年五月一五日確定し、これに伴い、同年六月二二日、昭和六〇年五月一四日付けの取締役及び監査役の就任登記につき、その選任決議不存在の判決が確定した旨の登記がなされるとともに、同日付けの訴外小田の代表取締役の就任登記が職権抹消され、それと同時に、昭和六〇年五月一四日付けの役員変更登記前の取締役訴外小田、同訴外近田、同近田セイ、代表取締役訴外小田、監査役亀谷幸男の役員登記が回復登記された。

なお、訴外近田は、前記株主総会決議不存在確認訴訟の提起に伴い、業務執行停止及び職務代行者選任の仮処分の申立てをしたが、同年一一月二〇日右申立てを取下げた。

(二) 右(一)で認定した事実によれば、昭和六〇年五月一四日の株主総会は存在せず、したがって、同日付けで登記された取締役の選任決議も存在しないから、その取締役によって構成される取締役会で代表取締役の選任決議をおこなったとしても無効であって、同日、訴外小田が取締役及び代表取締役に選任されたということはできず、その就任登記によっても何らの効力も生じない。そうだとすると、実体的な取締役及び代表取締役は、同日付けの変更登記の存在にもかかわらず、昭和六〇年五月一四日以前となんら変更がないといえる。そして、従前の取締役の地位は、原則として、当初の選任に基づく期間失われないし、代表取締役の地位も、取締役会で、解任の決議ないかぎり、取締役の地位を失うまで継続するところ、前記のとおり、訴外小田、訴外近田、近田セイの取締役としての就任及び訴外小田についての代表取締役としての就任は昭和五八年一一月二四日である。そして、白樺では、定款で「取締役の任期は、就任後二年内の最終の決算期に関する定時株主総会終結に至るまでとする。」と定めている(一二条1)から、右訴外小田ら三名の取締役の任期は、昭和五八年一一月二四日から二年内の最終の決算期に関する定時株主総会終結をもって満了することになる。しかし、任期が満了したとしても、法律又は定款に定める取締役の員数を欠くに至った場合には、任期の満了により退任した取締役は、後任の取締役が選任されるか、仮取締役(商法二五八条二項)あるいは取締役の職務代行者(同法二七〇条一項)が選任されるまでの間は、従前どおり取締役としての権利義務を有する(同法二五八条一項)ものであるから、本件(二)売買契約当時訴外小田、訴外近田、近田セイの三名は、白樺の取締役としての地位を依然継続していたといわざるをえず、したがって、訴外小田については、代表取締役としての地位を継続していたということができる。

この点、昭和六〇年五月一四日以降、白樺の事実上の支配権を巡り訴外小田と訴外近田の間に紛争があり、同日付けで訴外小田が前述のような不実の登記を行い、これに効力を認めることが妥当ではないとしても、取締役や代表取締役の地位を巡る紛争は白樺の内部的な問題であり、現に取締役・代表取締役として活動している者に対する職務の執行停止及び職務代行者選任の仮処分などの法律上の適切な措置がとられないまま放置されていた以上、これをもって、白樺と取引関係に入った外部の第三者に、実体上の代表権を否認することはできないし、本件(二)売買契約の当時、ゼニスにおいて、訴外小田の代表権を主張することが信義則上制限されるような特段の事情も全く認められない。

したがって、訴外小田は、本件(二)売買契約当時、白樺を代表して右契約を締結する権限を有していたというべきである。

4  本件(二)売買契約に基づく引渡及び仮登記(抗弁6及び7)について

右2(三)で認定した事実及び前記証拠(乙ロ二、乙ロ三〇ないし一一〇)によれば、昭和六二年二月二六日、本件(二)売買契約に基づき、本件土地(一)及び(二)が、白樺からゼニスに引き渡され、本件土地(一)及び(二)について本件ゼニスへの仮登記がなされたことが認められる。

三  解除の有効性(再抗弁1、再々抗弁1、再々々抗弁)について

1  争いのない事実

再抗弁1(二)(催告)の事実、再々抗弁1(一)(代金支払方法の合意)、(二)(1)(八五〇万円の支払)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。また、再々抗弁1(二)(2)のうち、訴外早勢が、昭和五一年一二月一七日、道央緑地の訴外道央信組に対する手形借入金債務のうち、四〇〇〇万円につき白樺に代わって免責的債務引受をしたこと自体は、当事者間に争いがない。

2  本件(一)売買契約の対象範囲等

本件解除の前提として、まず、本件(一)売買契約の目的土地の範囲に本件土地(三)が含まれるか、また、本件(一)売買契約の代金支払方法として白樺が引受けるべき債務のなかに、訴外早勢が引受けた四〇〇〇万円の債務が含まれるかにつき検討する。

(一) 本件(一)売買契約の経緯について

右三1の争いのない事実に、証拠(甲一、甲四、甲五、甲三九、乙イ一、乙イ二の1、2、乙イ四、乙イ五、乙イ一〇ないし一二、乙イ一五、乙ロ三〇ないし一一〇、乙ロ一一八、証人近田照夫(一回)、証人吉岡光明、証人小田紀夫)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(1) 昭和五一年の訴外早勢、吉岡売買

昭和五一年九月八日、訴外早勢は、道央緑地の代表取締役である吉岡から、道央緑地所有の本件土地(三)を代金四〇〇〇万円で買い受けた。その際、本件土地(三)が、道央緑地が訴外道央信組から融資を受けた四〇〇〇万円の担保に供されていたことから、訴外早勢と吉岡は、訴外早勢が道央緑地の訴外道央信組に対する右債務を引け受けることを代金支払方法とする旨合意し、念書(甲五)を作成した。これに基づき、本件土地(三)につき、昭和五一年一一月二九日、同月一日売買を登記原因として、訴外早勢に対して所有権移転登記がなされた(旭川地方法務局同月二九日受付第五八一三四号)。これと同時に、本件土地(三)についての、債務者を道央緑地とする、訴外道央信組の根抵当権設定登記(極度額三〇〇〇万円)が抹消され(旭川地方法務局同月二九日受付第五八一三三号)、債務者を訴外早勢、訴外道央信組を根抵当権者とする根抵当権設定登記(極度額四〇〇〇万円)がなされた(旭川地方法務局同月二九日受付第五八一三五号)。

(2) 昭和五二年の白樺会員募集申込金に係る契約(乙イ一)

昭和五二年三月四日、本件土地(一)のうち別紙物件目録記載一の番号(以下単に「番号」という。)8ないし18、20を除く土地につき、白樺、道央緑地及び吉岡、訴外道央信組間で、次のとおりの合意が成立した。

① 白樺の会員募集につき訴外道央信組が縁故会員を一口四〇万円で募集し、会員権払込金について、白樺、道央緑地及び吉岡は、道央緑地の訴外道央信組に対する債務に充当することを承諾する。

② 申込金については、訴外道央信組が直接受領し、白樺ゴルフクラブが完成オープンして会員証が発行されたことを確認するまで、これを保管する。

③ 白樺、道央緑地及び吉岡は、申込保管金について、道央緑地の訴外道央信組に対する債務の弁済に充当することを承諾し、通常の払出手続によらなくても払出充当することを認める。なお、右債務に充当後に残余金があれば、白樺名義の口座に入金する。

④ 会員権販売代金が道央緑地の債務額に満たないときは、昭和五二年八月三一日を期限として、道央緑地は不足金を弁済する。

⑤ 訴外道央信組は、道央緑地の債務が完済されたときは、根抵当権設定契約書に抹消委任状を添えて白樺に引き渡し、道央緑地は委任状等を白樺に引き渡す。

(3) 昭和五三年売買(乙イ二の一)

道央緑地及び吉岡と白樺は、昭和五三年六月二七日、道央緑地及び吉岡を売主、白樺を買主として、次のとおり合意した。

① 本件ゴルフ場内の道央緑地及び吉岡名義の全ての土地を白樺に譲渡する。

② 富良野市山部の土地(価格四六七万円)、渡島支庁茅部郡森町濁川の土地三筆(山林、価格三五〇万円)、石狩支庁札幌郡広島町大曲の土地(原野、価格一〇〇万円)については、その売買代金のうち、三五〇万円を訴外大崎の債務の弁済に、四六七万円を訴外松本の債務の弁済に充当することとして譲渡し、その分については白樺の権利になることとする。

③ 道央緑地ないし吉岡は、その預金一四〇〇万円について、白樺が使用することを承諾する。

④ 右①ないし③の代償として、白樺は道央緑地及び吉岡の左記債務を引受け、その支払を白樺の責任においてするものとする。

イ 道央緑地の訴外道央信組に対する債務三六八九万五八八九円及び昭和五二年から昭和五三年現在の右債務の利息

ロ 訴外松本及び訴外大崎の債務支払いについては、白樺が一切の責任を持ち解決支払する。ただし前記②の土地代金については、白樺の入金とする。

⑤ 道央緑地及び吉岡の訴外道央信組に対する債務については、白樺が責任をもって訴外道央信組と協議の上解決し、道央緑地及び吉岡に迷惑をかけない。

道央緑地及び吉岡と白樺は、同日、右売買契約の付記事項として、前記③の履行に伴い、白樺が借受けた一四〇〇万円の返済方法として、次のとおり合意した。

① 白樺は、訴外道央信組に預入れの白樺ゴルフクラブの会員券三五枚を道央緑地ないし吉岡に引渡して支払う。

② 白樺は吉岡に同会員券八枚を引渡して支払う。

③ 白樺は、手形一〇枚額面合計五〇〇万円を道央緑地ないし吉岡に振出す。

(4) 昭和五六年八月二〇日契約(甲一)

昭和五六年八月二〇日、道央緑地及び吉岡と白樺は、従前の複数の売買契約等により法律関係(債権債務の状況、土地の権利関係等)が錯綜していたことから、今後の問題が生じないようにするために、これまでの契約を整理して改めて契約書(甲一)を作成することとし、契約書の作成日付を昭和五一年七月一日付として、次のとおり合意した。

① 道央緑地及び吉岡は、白樺に対し、本件土地(一)(番号9ないし11、14ないし17記載なし。)及び(二)を代金一億三五〇〇万円で売り渡す。

② 代金のうち、一億二六五〇万円については、白樺が、道央緑地の左記の債務を引受けることにより弁済する。なお、白樺は、引受債務の弁済時期等の詳細については各債権者と別途協議の上決定するが、昭和六一年末日を弁済完了の一応のめどとする。

イ 道央緑地が訴外道央信組から借り受けている「本日」現在の債務金七六五〇万円

ロ 道央緑地が訴外松本及び訴外大崎から借り受けている旭川地方法務局昭和五〇年八月一三日受付第三三四九八号によって設定された根抵当権の被担保債権全部。

③ 代金のうち、八五〇万円については、後記⑥による所有権移転登記手続と引換えに、白樺が、約束手形五通(額面合計八五〇万円)を振出し交付して弁済する。

④ 白樺は、前記土地について訴外道央信組、訴外松本及び訴外大崎の各根抵当権設定登記が存在することを認め、道央緑地及び吉岡は、右のほかに負担のないものであることを保証し、白樺が②イ及びロによる引受債務の弁済を完了したときは、右各登記をただちに抹消する。

⑤ 道央緑地及び吉岡は、白樺に対し、本日、前記土地の所有権を移転し、現実に引渡し、白樺はこれを受領する。ただし、所有権移転登記については、白樺が前記②及び③の代金全額の支払を完了したときに行なう。

⑥ 道央緑地及び吉岡は、白樺の求めるときは、ただちに売買を原因とする所有権移転仮登記手続を行う。

(5) 昭和六〇年一二月七日付け協定書(甲四)

道央緑地及び吉岡と白樺は、昭和六〇年一二月七日、次のとおり合意し、協定書(甲四)を作成した。

① 道央緑地及び吉岡が白樺に使用させていた訴外道央信組の道央緑地名義の預金一四〇〇万円について(昭和五三年六月二七日付け売買契約の合意事項③)、白樺はこれを道央緑地及び吉岡に返済する。道央緑地及び吉岡と白樺との間の債務は、訴外松本及び訴外大崎名義の根抵当権の借入金以外は、残額がないこととする。

② 右①の一四〇〇万円の返済については、

イ その内の六〇〇万円を、白樺は、昭和六一年以降、毎年五月から同年一〇月まで毎月額面二〇万円の手形にて支払う。

ロ 残額の八〇〇万円は、本件ゴルフ場を売却した時点で支払う。その時点において、右②イの手形による支払について残額がある場合には、同時に決済することとする。

③ 訴外松本及び訴外大崎名義の根抵当権の借入金については、訴外松本及び訴外大崎と吉岡の三者にて合意してある「道央緑地より返済」との事由により、道央緑地より返済する。本件ゴルフ場売却の時同時支払とする。

④ 昭和五六年八月二〇日作成(昭和五一年七月一日付け)の契約書(甲一)が最終の契約書であり、この協定書はそれに補足するものであり、それ以前のいかなる契約書及び文書も無効とする。

(二) 本件(一)売買契約について

(1) 右三2(一)で認定の事実及び同掲記の証拠によれば、昭和五六年八月二〇日、道央緑地及び吉岡と白樺とが前記三2(一)(4)の合意をなし、昭和五一年七月一日付けの契約書を作成した意味は、次のとおりであると認められる。

すなわち、道央緑地ないし吉岡側と白樺ないし訴外早勢側との間の、本件ゴルフ場用地を巡る取引については、昭和五三年六月二七日売買契約によって本件ゴルフ場用地のうちの道央緑地及び吉岡名義の土地全部が対象となり、すでに白樺ないし訴外早勢が取得していた土地を合わせると、本件ゴルフ場用地についての取引はすべて完了したこととなった。ところが、本件ゴルフ場用地の売買については、右当事者間に従前からの経緯を含めて複数の売買契約(昭和五一年九月八日売買契約・本件土地(三)、昭和五二年三月四日契約・本件土地(一)の一部、昭和五三年六月二七日売買契約・本件ゴルフ場内の道央緑地及び吉岡名義の土地全部)が存在していたことから、両者の間の権利・義務関係が混乱し、様々なトラブルが生じたことから、これを明確にするために、旭川弁護士会所属の川村武雄弁護士に相談して、本件(一)売買契約について一本の契約書にまとめて処理することとなった。その際、契約書の作成日付を、現実の合意時点(昭和五六年八月二〇日)ではなく、昭和五一年七月一日としたが、この趣旨は、全ての土地の売買について同時に本件(一)売買契約があったこととするには、最初の契約である昭和五一年九月八日ころに本件(一)売買契約があった旨の形式を整える必要があったから、それに近い日付の作成とされたものである。ただし、「七月一日」自体には特に意味は認められない。

なお、前記昭和六〇年一二月七日協定書でも、本件(一)売買契約については、昭和五六年八月二〇日の契約が最終的な契約であり、これ以前のものはすべて無効と確認している点からも、昭和五六年八月二〇日の契約によって、本件(一)売買契約に係る従前の契約を一つにまとめたものということができる。

(2) 右の趣旨からすれば、昭和五六年八月二〇日の合意に基づいて作成された本件(一)売買契約についての契約書(甲一)に含まれる目的土地の範囲としては、従前の複数の契約で対象とされていた本件土地(三)を含む全ての土地が含まれるものと考えるのが自然であり、右合意をし、改めて契約書を作成した当事者の意思に叶うものというべきである。訴外早勢は、その当時白樺の代表取締役であり、実質的なオーナーであったから、白樺と訴外早勢は事実上同一視することができ、道央緑地ないし吉岡側においても、その時点では白樺が本件ゴルフ場の経営主体となっていることを認識していたこと、また、本件土地(三)については、右合意以前の昭和五三年五月一七日付けで真正な登記名義の回復を原因として、訴外早勢から白樺に所有権移転登記がなされていることをも考慮すると、本件土地(一)および(二)と同様、本件ゴルフ場用地内の道央緑地及び吉岡名義の土地であった本件土地(三)を、あえて本件(一)売買契約の目的土地に含まれないとして本件土地(一)及び(二)と区別するのは不自然である。

もっとも、甲一の契約書には売買の目的土地として本件土地(三)が明示されていないが、右契約書が現実に作成された昭和五六年八月二〇日時点において、本件土地(一)及び(二)については白樺への本登記が未了(仮登記)であったが、本件土地(三)についてはすでに本登記済であったことから(本件土地(三)は昭和五一年一一月二九日付けで訴外早勢に、昭和五三年五月一七日付けで白樺に各移転登記済)、あえて本件土地(三)を目的土地として明示しなくても特に問題は生じないと考えられたこと、同契約書の特約事項として、「本契約は白樺が現に占有使用するゴルフ場敷地内に存する吉岡、道央緑地所有の土地全部を白樺に売渡すことを目的とする」旨が明記されており、その日付が昭和五一年七月一日として作成されたこと等を考慮すると、甲一の契約書に本件土地(三)が明示されていないことをもって、本件土地(三)が本件(一)売買契約の目的土地の範囲に含まれないということはできない。

(3) ところで、昭和五一年七月一日時点での道央緑地の訴外道央信組に対する債務(手形借入金債務のみ)残高は六八〇〇万円であり、昭和五一年一二月一七日時点での同債務残高は三六八九万五八八九円であった(甲一二)ことが認められ、右事実及び前記認定の各事実によれば、昭和五一年九月八日売買契約の本件土地(三)の代金支払方法としてなされた訴外早勢の四〇〇〇万円の債務引受けの履行(昭和五一年一二月一七日)により、道央緑地の訴外道央信組に対する債務の残額が三六八九万五八八九円となったことが認められる。他方、昭和五三年三月三一日時点での道央緑地の訴外道央信組に対する債務(手形借入金債務のみ)残高は三六八九万五八八九円(甲八三)、同時点での吉岡の訴外道央信組に対する債務残高は三七九二万九四〇五円(手形貸付分三六五〇万円、証書貸付分一四二万九四〇五円、甲七六)、昭和五六年三月三一日時点での道央緑地の訴外道央信組に対する債務(証書貸付債務のみ)残高は一三一五万一五八一円(甲八六)、同時点での吉岡の訴外道央信組に対する債務残高は四七二五万円(割引手形分五〇〇万円、手形貸付分四二二五万円、甲七九)であったことが認められる。

右認定の事実によれば、本件(一)売買契約において、白樺が債務引受けした道央緑地の訴外道央信組の債務は、甲一の契約書が現実に作成された昭和五六年八月二〇日現在の道央緑地の訴外道央信組に対する残債務でないことは明らかである(同日現在の吉岡の債務との合計でもない。)。そして、前記のとおり本件(一)売買契約の目的土地の範囲に本件土地(三)が含まれていること、昭和五一年一二月一七日になされた訴外早勢の道央緑地の訴外道央信組に対する四〇〇〇万円の免責的債務引受は、本件土地(三)の代金支払方法としてなされていること、しかも、右訴外早勢の免責的債務引受は白樺に代わってなされたものであること(この点は当事者間に争いがない。)等に照らすと、結局、本件(一)売買契約の代金支払方法として白樺が引受けるべき「道央緑地が訴外道央信組から借受けの本日現在の債務金七六五〇万円」には、昭和五六年八月二〇日の合意時点では訴外早勢が免責的債務引受をしてすでに履行済であった前記四〇〇〇万円を含めた債務金額が記載されたものと解するのが相当である。

3  本件(一)売買契約の代金についての白樺の弁済〈債務履行〉(再々抗弁1)について

前記三1の争いのない事実及び三2で認定の各事実に証拠(乙イ三ないし七、乙イ一一、乙イ一二、乙イ一五、乙イ一六、甲二、甲一五ないし二〇の各1〜3、甲二一ないし三七の各1、2、証人近田照夫(一回、二回)、証人吉岡光明、証人小田紀夫)並びに弁論の全趣旨を総合すれば以下の事実が認められる。

(一) 昭和五六年八月二〇日契約書②イ・訴外道央信組関係(再々抗弁1(一)(1))

道央緑地が訴外道央信組に対して負担していた七六五〇万円の債務については、うち四〇〇〇万円については、前記三2(二)(3)で認定したとおり、昭和五一年一二月一七日、当時の白樺の代表者であった訴外早勢が白樺に代わって免責的債務引受をすることにより履行を完了した。

その余の債務については、白樺は、昭和五三年七月三一日に一六六四万六三〇八円弁済し、その後、残元金については、昭和五三年八月五日に証書貸付に書き替えられ、その時点での債務額は二〇二四万九五八一円となった。

さらに、白樺は、右債務額について、昭和五四年六月から毎月三三万八〇〇〇円ずつ六〇回で支払い(最終回は三〇万七五八一円)、利息について、昭和五三年八月末日を第一回として、以後毎月末日に、既経過分を後払いし、昭和五九年六月六日これを完済した。

(二) 同契約書②ロ・訴外松本及び訴外大崎関係(再々抗弁1(一)(2))

訴外松本及び訴外大崎に対する債務の引受け分は、昭和五六年八月二〇日の合意時点では、五〇〇〇万円存在していることが前提とされていたが、その後、白樺は、訴外松本及び訴外大崎に対し、実際の債務残額三〇〇〇万円について、昭和六二年一月二三日本件(二)売買契約の交渉金としてゼニスから交付を受けた五〇〇〇万円のなかから現金でその翌日か翌々日に支払い、その履行を完了した。なお、右債務につき弁済を完了した旨の訴外松本及び訴外大崎の確認書(乙イ三)が、昭和六一年一一月一九日付けで作成されているが、右確認書は、白樺及び白樺ゴルフクラブの常務理事四名の共同振出しの手形が白樺から交付された時点で作成されたものであって、右手形は、前記のとおり白樺から現金で弁済がなされた時点で返還された。

4  本件(一)売買契約の解除の経緯

本件催告による支払期限は、昭和六二年一月二六日であるところ(なお再抗弁1(一)の事実はこれを認めるに足りる証拠がない。)、白樺が、本件(一)売買契約の代金の支払いについて、全て催告期限内である昭和六二年一月二六日までに履行を完了したことは前記三1及び3のとおりであるから、本件解除についてはその効力が生じないことは明らかである。

5  履行内容の変更合意について(再々々抗弁)について

甲四の協定書によれば、その四項で、「訴外松本及び訴外大崎名義の根抵当権の借入金については、訴外松本及び訴外大崎と吉岡の三者にて合意してある『道央緑地より返済』との事由により、道央緑地より返済する。」との記載があるが、これをもってただちに白樺が訴外松本及び訴外大崎に直接支払うことを禁止することまで合意したことは認めることができない。むしろ、「道央緑地より返済」となったのが、白樺と道央緑地及び吉岡との合意によるのではなく、訴外松本及び訴外大崎と吉岡との合意によっていることを考慮すると、訴外松本及び訴外大崎、道央緑地及び吉岡、白樺の三当事者間において、道央緑地及び吉岡の責任が事実上免除されていたのに、前述のとおりその当時白樺の経営状況が危機的になり履行が確保されないおそれが生じていたこと及び白樺の身売り話が幾度も持ち上がり責任主体が不明確になるおそれがあったことから、訴外松本及び訴外大崎が、道央緑地側の責任を明確にするために、訴外松本及び訴外大崎と吉岡の三者にて「道央緑地より返済」する旨合意したものと推認される。

したがって、甲四の協定書四項は、白樺が直接白樺名義で、あるいは道央緑地名義で返済することまでを禁止したものと認めることはできないから、再々々抗弁はこれを認めることはできない。

四  営業譲渡(再抗弁2)について

1  営業譲渡の意義について

商法二四五条一項一号の「営業ノ全部又ハ重要ナル一部の譲渡」とは、一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産の全部又は重要な一部を譲渡し、これによって、譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部又は重要な一部を譲受人に受け継がせ、譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に競業避止義務(商法二五条)を負う結果を伴うものをいう(最高裁大法廷判決昭和四〇年九月二二日、民集一九巻六号一六〇〇頁)。その財産のうちには、単なる物又は権利義務だけではなく、得意先関係、営業上の秘訣、経営の組織等の事実関係をも包含する。したがって、営業を構成する各個財産だけの譲渡は、その分量がいかに大きく又はいかに重要なものであって、これによって譲渡会社が当然に営業を廃止し、又はその営業の規模を大幅に縮小するの止むなきに至るなど、当該譲渡会社の運命に重大な影響を及ぼす場合であっても、営業の譲渡とはならず、当該会社の株主総会の特別決議を経ることを必要としない。

2  本件(二)売買契約の経緯、内容等の確定

本件(二)売買契約により、本件ゴルフ場経営の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する白樺の財産の全部又は重要な一部がゼニスに譲渡されたものであるか、また、これによって、ゼニスは、白樺がその財産によって営んでいた営業的活動の全部又は重要な一部を受け継ぐものであるか、そして、白樺がその譲渡の限度に応じ法律上当然に競業避止義務(商法二五条)を負う結果を伴うものであったかを判断しなければならないが、右判断に当たっては、契約書等の形式的な文言によるべきではなく、本件(二)売買契約の目的物の具体的な内容及び当事者間の法律上、事実上の関係を客観的に分析して確定しなければならない。

右の観点から、以下、前記二2で認定した事実及び証拠(前記二2に掲記の証拠及び乙ロ二六、乙ハ二、乙ハ三、乙ハ四の1〜3、丙二ない四)に基づき、本件(二)売買契約の経緯、内容等をまず確定する。

(一) 客観的な取引対象

本件(二)売買契約の目的物の範囲は、昭和六二年二月二六日の契約時に作成された「不動産売買並びに営業譲渡契約書」(乙ロ二)によれば、①白樺が経営する本件ゴルフ場の営業、②本件ゴルフ場が使用占有する不動産、③本件ゴルフ場の什器、備品、機械、器具等の営業用動産一切及び電話加入権と規定されている。そして、右の対価としての売買代金は総額で二億二五〇〇万円で、その内訳としては、土地代金が九五〇〇万円、建物代金が五〇〇〇万円、営業権及び什器備品一切が八〇〇〇万円とされている。

その後、昭和六二年四月三日、「変更契約書」が作成され、これによれば、売買代金の総額が、当初より一〇〇〇万円減額されて二億一五〇〇万円となり、その内訳としては、土地代金が九五〇〇万円、建物代金が五〇〇〇万円、動産類が七〇〇〇万円とされている。

さらに、昭和六二年一〇月一七日、白樺からゼニスに対し、「確認書」と題する書面(乙ロ五)が差し入れられ、これには、「昭和六二年二月二六日付貴社との契約について不動産売買並びに営業譲渡契約書とありますが、当契約は不動産及び動産の個別契約であり又本契約書に記載されている営業とは債務を包含するものではありません。かかる趣旨は本契約書第七条に規定されているとおりです。」と記載されている。

(二) 契約前後の財産の利用状況

(1) 本件(二)売買契約当時の白樺の経営状況は、販売済の会員権が約一三〇〇口で、新規会員権の販売価格は、個人会員五五万円、法人会員一一〇万円であったが、新規販売は極めて低調で、これを収入源として期待することはできなかった。シーズン中の売上は約一億五〇〇〇万円と一応順調であったが、負債の額が大きく、その支払や利払のための資金繰りが常に厳しい状況で、倒産は必至の状況であった。白樺は、本件(二)売買契約により、事実上営業活動を停止することとなり、また、本件(二)売買契約後の昭和六二年二月二六日に一回目の手形不渡りを、同年三月五日に二回目の手形不渡りを出して銀行取引停止となり、事実上倒産した。

ゼニスは、本件(二)売買契約の直後のゴルフシーズンである昭和六二年四月からのシーズンについては、訴外近田と訴外小田との間の紛争により、近田から本件(二)売買契約が無効である旨の申し入れを受けていたこと、本件ゴルフ場クラブハウス内の食堂の立ち退き交渉が難航していたことなどの理由から、本件ゴルフ場での営業を見合わせ、その運営を断念した。

そこで、本件ゴルフ場の運営について、ゼニス、白樺、白樺ゴルフクラブの理事らが話し合い、とりあえず同シーズンについては、白樺ゴルフクラブの理事らによって組織される運営委員会(委員長は山元弘、委員は伊与木尚利、川島一泰、栗林健治、小森雄次郎)によって自主的に本件ゴルフ場を運営することとなり、その旨、各白樺会員に通知された(丙四)。右運営委員会は、ゼニスから本件ゴルフ場(施設、従業員等を含む。)を無償で借受け、そのシーズンの収支については右運営委員会の計算でなされ、その税務申告は山元弘名義でなされた。

翌昭和六三年四月からのゴルフシーズンにあたっては、クラブハウス内の食堂の問題解決について一応の目処がついたこと、自主運営では施設の維持・管理に限界があり、施設の損傷、老朽化が進みその整備が急務であったことから、ゼニスが運営に当たることとなった。ゼニスは、本件ゴルフ場での営業を開始後、クラブハウスの改修、スプリンクラーの設置などコースの整備、老朽化した設備等の更新に着手し、これは約三年の間に終了した。

(2) 会員の引き継ぎ・新規募集

白樺とゼニスの交渉過程においては、白樺会員の保護が中心的な交渉事項とされており、ゼニスと白樺及び白樺ゴルフクラブの会員代表(同クラブ理事会の常務理事栗林健治、同伊与木尚利)との間の昭和六二年一月二三日協定書(乙ロ一)には、白樺会員保護の条項として、「ゼニスは、白樺が白樺会員に負担する預託金返還債務等の債務を一切負わない。ただし、会員のプレーする権利については、協議のうえ別途協定する。」(五項)とある。しかし、本件(二)売買契約書においては、その第七条において、「白樺が会員に負担する預託金返済債務及びその他一切の債務について、ゼニスは一切責任を負わない。」旨合意されたのみで、白樺会員保護の規定は契約条項としては具体的かつ明示的には規定されておらず、ゼニスと白樺間で同時に交わされた覚書(乙ハ七)において、「旭川白樺国際カントリークラブの会員の本件ゴルフ場でプレーする権利については、白樺及び白樺の保証人、ゼニス、会員の代表者と協議の結果別途協定する旨約する。但しこの際の会員の負担金は、一株につき五万から一〇万円の範囲とする。」旨合意されたにすぎない。

もっとも、ゼニスとしては、今後の本件ゴルフ場運営に当たっては、白樺会員の協力を得ることも必要と考えていたことから、右覚書(乙ハ七)のとおり会員代表と協議の上本件(二)売買契約とは別個の合意をする予定であったところ、同年三月二八日、上川郡鷹栖町福祉会館において、白樺会員約三〇〇名が出席して会員集会が開催され、同クラブ理事らから、従前のゼニスとの交渉経緯及び白樺会員保護の条件等が説明された結果、ゼニスに対し、白樺会員の保護を要請する決議(以下「本件会員決議」という。)がなされ、その内容は山元弘(会員代表理事長)、川島一泰(常務理事)、伊与木尚利(常務理事)及び栗林健治(常務理事)の四名が連署の上、「株式会社白樺カントリークラブ会員一同名義」で同月三〇日付けの「会員集会における決議事項」(乙ロ二六)としてゼニスに差し入れられた。本件会員決議の具体的内容は、「①現在、同クラブに登録されている会員については、一〇万円の追加金により会員としての権利を認めて欲しい。その場合、証券は最低でも二〇万円を保証して欲しい。②クラブハウスの改修、スプリンクラーの設置、コース整備をして欲しい。」というものであり、また、その尚書きにおいては、「償還期間の来ている預託金返還には応じられないという点に関しては異議ありません。」旨記載されている。これに対しゼニスも、従前の白樺との交渉にほぼ沿う内容であったことから本件会員決議を受け入れることとし、その結果、昭和六二年のゴルフシーズンについてはゼニスによる運営が見送られることになったものの、白樺会員に対する「お知らせ」(丙四)において、「従前の当会員券の救済措置(個人一〇万円、法人二〇万円の負担による会員権の付与。預託証券額について検討中)を講ずる。今後二年間は新ゴルフ会員券(預託証書)を発行しない。」旨が掲示された。

ゼニスは、昭和六三年四月から、「ゼニスカントリークラブ」との名称で本件ゴルフ場の営業を開始したが、新規会員の募集については、平成二年正会員分から個人正会員三〇〇万円(記名式一口、入会金八〇万円、預託保証金二二〇万円)、法人正会員六〇〇万円(記名式二口、入会金一六〇万円、預託保証金四四〇万円)との条件で募集し、白樺会員については、前記の経緯をふまえ、右新規募集とは別枠で、いわゆる縁故募集として、個人会員については記名式一口を入会金一〇万円で募集し(預託金については支払わないが、額面二〇万円・預託期間一〇年の預託保証金の証券が発行された。)、約三〇〇人の白樺会員がこれによりゼニスの会員権を取得した。また、白樺会員の一部は、独自に「旭川白樺カントリークラブ会員の権利を守る会」を結成し(会長龍後広幸)、本件(二)売買契約の第七条が無効であること、右売買契約自体が無効であることを主張し、白樺会員の諸権利を一〇〇パーセント守ることを掲げてゼニスと交渉にあたり、ゼニスでのプレイ妨害禁止仮処分(当庁昭和六三年(ヨ)第三四号)を提起したが、最終的には、白樺会員のうちの二一四個人会員及び二一法人会員とゼニスとの間で和解が成立し、会員資格を取得した(入会金及び預託金については支払わないが、個人会員一口につき額面一〇万円の個人会員資格保証書が発行された。)。

以上のとおりであって、本件(二)売買契約によって、ゼニスは、白樺会員の会員としての諸権利(本件ゴルフ場でのプレー権等)及び白樺の負担する預託金返還債務を引き継がず、したがって、預託金返還債務については白樺が依然として負担し、白樺会員としてのプレー権も白樺に対して請求しうるのみであって、個々の白樺会員はゼニスに対する権利ないし法律上の地位を何ら取得するものではなく、白樺に対して損害賠償請求権あるいは預託金返還請求権を行使し得るにすぎない。そして、個々の白樺会員が当然にゼニスの会員としての地位を獲得するものではないことは明らかであり、白樺会員がゼニスカントリークラブの会員となることを望めば、新規募集より有利な条件で会員資格を獲得できるにすぎない。白樺会員保護の条項は、白樺とゼニス間の契約に付随するものにすぎず、個々の白樺会員は事実上の利益を受けるだけのものであって、右条項をもって、ゼニスが個々の白樺会員に法律上の義務を負うものとは認められない。また、白樺会員がゼニスの会員となった場合においても、白樺に対する権利を失わないことは当然である。

(3) 債権債務の継承

本件(二)売買契約の条項によれば、白樺の債権債務については、ゼニスが承継しない旨規定されているが、個別の債務については、ゼニスが債務整理をするもの、白樺が本件(二)売買契約の代金をもって整理するものが考慮されていた。しかし、右債務の振り分けは、ゼニスと白樺間の内部的取り決めであって、対外的に効力を生ずる(当然に債務引受ないし債務承継となる)ものではない。また、白樺の具体的な債権については、本件(二)売買契約に際しては全く問題として取り上げられなかった。

なお、右ゼニスが債務整理を引き受けた債務のうち、シティコープに対する二億二三〇〇万円の債務は、昭和六二年一月二七日、株式会社永大ホームサービス(代表取締役目良歩)が六三〇〇万円の対価で債権譲渡を受け(乙ロ六)、大平興業に対する一億円の債務は、昭和六二年一月二七日、株式会社ゼニス(代表取締役橘内利夫)が七〇〇〇万円の対価で債権譲渡を受け(乙ロ九)、湯浅商事株式会社(旧商号湯浅金物株式会社)に対する二〇〇〇万円の債務は、平成二年五月一八日、ゼニスが五〇〇万円の対価で債権譲渡を受け(乙ロ一一)、東京造営株式会社(及び小野重明)に対する四〇〇〇万円の債務(正確には条件付所有権移転仮登記の被担保債権額)は、平成二年一二月二五日、株式会社ゼニスが三六〇〇万円の対価で仮登記等に関する諸権利を譲り受け(乙ロ一二)、株式会社長谷川物産に対する五四七七万四七七〇円の債務は、平成二年五月一五日、株式会社ゼニスが五二〇〇万円の対価で債権譲渡を受け(乙ロ一三)、以上により、ゼニスが債務整理を引き受けた分の債務はほぼ整理された。

(4) その他の外形上の営業の承継

本件ゴルフ場のコース設定は、ゼニスが営業を開始した当時は、従前どおりアウト九ホール、イン九ホールで、ほぼそのままの状態で承継しているが、ゼニスは、営業開始に当たって、クラブハウスの改築、コースの整備(芝の張り替え、スプリンクラーの設置)等に着手し、約三年ほどの間に約三億円をかけてこれを完了している。本件ゴルフ場の施設、設備については、重要な点で、従前のままの状況で使用を継続することが困難な状況にあり、その整備・更新が以前から懸案となっていたものであるが、白樺の経営状況が逼迫していたことから、白樺にはこれに着手する経済的余裕がなく、右施設等の整備・更新が、契約の際の重要な項目となっていた。

ゼニスは、昭和六三年四月から本件ゴルフ場での営業を開始するにあたり、本件ゴルフ場の名称を「ゼニスカントリークラブ」とした。

(5) 競業避止義務

白樺の競業避止義務については、特に契約条項に掲げられていないが、白樺の経営は危機的状態にあり、本件ゴルフ場売却後にその営業を廃止することは明らかであった。

(三) 当事者の意思

(1) 白樺

証人小田は、本件(二)売買契約により白樺のほぼ全財産が売却されることから、営業譲渡に当たるかもしれないとの認識があった旨供述する。しかし、白樺の身売りについては、従前から幾つかの話が持ち上がっていたところ、訴外小田の意思としては、債務の整理と白樺会員の保護が主要な点であり、白樺の営業自体を継続させていくことには、特にこだわっていなかった。そして、豊田ゴルフクラブへの身売り話のように、株式自体の譲渡という債務及び白樺会員を当然承継する身売りの方法があることを知りながら、ゼニスへの身売り話に際しては、株式譲渡の形式をとらずに本件(二)売買契約の形式をとったことからすると、訴外小田としては、本件(二)売買契約によって白樺の債務や白樺会員が当然に承継されるものではないことを十分に承知していたというべきであり、それであるからこそ、契約内容に債権債務に関する条項を設け、債務の整理については売買価格の算定に際して双方に振り分け、会員の保護については別途協定しているものである。したがって、訴外小田の前記営業譲渡に当たるかもしれないとの認識にかかわらず、訴外小田ないし白樺としては、本件(二)売買契約によって、白樺の営業自体をその同一性をもってゼニスに承継させる意図はなかったものと認められる。

(2) ゼニス

一方、ゼニス側としても、その経営母体である「ゼニスグループ」は、不動産売買、パチンコ店経営等の事業をおこなうものであるが、その実質的オーナーである橘内利夫が北海道富良野市出身であること、右事業の経営が順調で、ゴルフ場経営に乗り出そうと考えていた矢先であったことなどから本件ゴルフ場の経営に乗り出すことを決意したものであって、本件ゴルフ場の経営については、当初よりゼニスグループの新規事業として取り組む意図であり、白樺の営業自体を継承する意図はなかった。また、本件(二)売買契約当時の「旭川白樺国際カントリークラブ」に対するゴルフ場としての評価(乙ロ二四)については、本件ゴルフ場の立地条件が必ずしも良いわけではないこと、コース整備が不十分で、施設等の老朽化も著しいこと、昭和五二年のオープン以後約一〇年が経過するが、いわゆる「伝統のある名門コース」としての評価もないことなどの理由から、当時の会員権市場における評価は低く、会員としてプレーするには支障はないものの、会員権の流通価格が販売価格より高価になるということはなかったこと等を考慮すると、ゼニスは、本件ゴルフ場用地及び施設等をそれ自体として買い受け、コース整備、施設の刷新などを行なった上でゼニスとしての新規の会員を募集し、別個の新たなゴルフ場として開業する意図であったものと認められる。

(四) 契約の文言、外部に対する広告等

本件(二)売買契約に関し、白樺とゼニスの間で取り交わされた各種の書面、白樺ないしゼニスにより外部に表明された通知、広告等の表現については、次のとおりである。

(1) 昭和六二年一月二三日付け協定書(乙ロ一)には、売買物件として「営業権」との文言があり、本件(二)売買契約の契約書(乙ロ二)の表題は「不動産売買並びに営業譲渡契約書」となっており、売買目的物を規定した第一条には「営業及び不動産」との、同条一項には「甲が上川郡鷹栖町において経営するゴルフ場の営業(旭川白樺国際カントリークラブ)」との、第一条三項の代金内訳には「営業権及び什器備品一切八〇〇〇万円」との文言がそれぞれあり、営業権自体を売買の対象としている旨の記載が認められる。また、ゼニス等作成の昭和六二年四月一〇日付け「お知らせ」(丙二)、白樺作成の同日付けの白樺から同会員に対する通知(丙三)、自主運営委員会作成の同日付け「お知らせ」(丙四)には、それぞれ白樺からゼニスへの「経営権」の譲渡(売買、承継)との記載が認められ、ゼニスの新聞掲載広告「白樺ゴルフ場についてのお知らせ」(北海道新聞昭和六二年四月一七日、乙ハ二)には、経営権を譲り受けた旨の記載が、ゼニスの新聞掲載広告「お知らせ」(北海道新聞昭和六二年一〇月二二日、乙ハ三)には、ゼニスと白樺間の本件(二)売買契約の名称が「不動産売買並びに営業譲渡契約」であったことの記載がそれぞれ認められる。

(2) しかし、変更契約書(乙ロ四)においては、前記契約書(乙ロ二)第一条三項の代金内訳では「営業権及び什器備品一切八〇〇〇万円」となっていたのが、「動産類七〇〇〇万円」との文言になった。

また、前記「確認書」(乙ロ五)には、本件(二)売買契約について「不動産売買並びに営業譲渡契約書とありますが当契約は不動産及び動産の個別契約であり又本契約書に記載されている営業とは債務を包含するものではありません。」と記載されている。これは、白樺会員(堀口典良)がゼニスに対し、預託金返還請求の訴訟(当庁昭和六二年(ワ)第六一九号)を提起したことから、帰山が、営業譲渡となるとゼニスが白樺の債権債務関係をすべて引き継ぐこととなるものと考え、本件(二)売買契約は不動産及び動産の個別契約であって債務を引き継がないことを確認する趣旨を明確にするため、右書面を作成した上、訴外小田に印鑑を押させて白樺からゼニスに差し入れさせたものである。

前記新聞掲載広告「お知らせ」(北海道新聞昭和六二年一〇月二二日、乙ハ三)には、ゼニスが白樺との間で「不動産売買並びに営業譲渡契約を締結致しましたが、かかる契約においてゼニスが白樺の第三者に対する債務を引き受けたものではないことを念の為お知らせします。」との記載がある。

3  検討

右2及び前記二3で認定した各事実を総合すれば、本件(二)売買契約によって、ゼニスが白樺の営業活動を承継していないこと、すなわち、本件(二)売買の目的物が本件ゴルフ場経営の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産ではなかったこと、ゼニスは、白樺がその財産によって営んでいた営業的活動の全部又は重要な一部を受け継ぐものではないものと認められる。

ゴルフ場経営に際し、個別財産がその営業目的のため組織化され、有機的一体として機能するために最も重要な要素となるべきものは、いわゆる「ゴルフクラブ」としての組織性、一体性であり、これはゴルフクラブの会員、会員で組織される理事会等の各種委員会及び従業員等の人的側面とゴルフコース及びクラブハウス等の物的側面から構成されるものであるところ、本件(二)売買契約において、ゼニスは物的側面(不動産及び動産類)のほとんど全てを譲り受けたものの、ゼニスが営業を開始するに当たってはその重要な点を大幅に改良しており、同一性は認められない。また、「旭川白樺国際カントリークラブ」の人的側面については、法律上一切承継していない。また、「ゼニスカントリークラブ」と「旭川白樺カントリークラブ」との間では、その名称、会員構成等が異なり、事実上の同一性、一体性も認められない。旭川白樺国際カントリークラブの営業状況、従前の評価からすれば、ゼニスがその営業自体の価値を評価しておらず、営業を同一性をもって承継することを望んでいなかったものであり、むしろ、その影響を最小限に抑えたかったこと、そして、現実に営業を開始した際にも白樺の営業を同一性をもって承継していないことは明らかである。この点、白樺会員の一部をゼニスの縁故会員として募集するなどして引き受け、白樺の理事の一部、理事会ないし会員代表の協力を受けるなど事実上、人的側面の一部を承継していることが認められるが、ゼニスとしては、新規のゴルフ場を開業する意図であったから、会員の承継を望んでいたものではなく、むしろ承継しないことを欲していたものであって、会員保護としていわば消極財産として白樺会員を事実上承継したものであり、その際にも、白樺会員としての地位を一切引き継がず、新規のゼニス会員となる法律上の手続を明確にとっている上、前記協力を受けた事情についても、ゼニスの新規営業のためというより、むしろ、白樺会員保護のために必要だったからである。

また、当事者間の主観的な意図についても、営業譲渡となることを回避していたことが認められる。この点、契約書等に「営業譲渡」あるいは「経営権の譲渡」等の文言が存在するが、契約条項の具体的な規定には、個別の財産を本件ゴルフ場経営の営業目的のため組織化し、有機的一体として機能させるための具体的な条項及び従前の営業活動を承継させるための具体的な条項はなく、営業譲渡と認めるべき具体的な内容は認められない。

よって、本件(二)売買契約は、商法二四五条一項一号の営業譲渡に該当するものと認めることはできず、したがって、白樺の株主総会の特別決議も不要である。

五  結論

以上によれば、ゼニスの抗弁(登記保持権原及び占有正権原)が全て認められ、これに対する北海道興業の再抗弁1(契約解除)は、再々抗弁1(弁済)が認められ、再々々抗弁が認められないから失当であり、また、再抗弁2(営業譲渡)も失当であるから、結局、北海道興業の請求はいずれも理由がない。

第二  第二事件について

一  請求原因について

1  請求原因1及び2については、本件土地(三)が本件(一)売買契約の目的土地に含まれるとの点を除き、当事者間に争いがない。

また、本件土地(三)が本件(一)売買契約の目的土地に含まれることは、第一事件の理由三2に記載のとおりであるから、これを引用する。

2  請求原因3については、当事者間に争いがない。

3  請求原因4(一)のうち、訴外早勢が昭和五一年一二月一七日に道央緑地の訴外道央信組に対する手形借入金債務のうち四〇〇〇万円について白樺に代わって免責的債務引受をしたこと、及び同4(二)は、当事者間に争いがない。そして、白樺が昭和五六年八月二〇日、本件(一)売買契約の代金のうち一億二六五〇万円の支払方法として引受けた債務について、遅くても昭和六二年一月二六日までに全てその履行を完了したことは、第一事件の理由三3に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、白樺が、昭和五九年六月六日までに道央緑地の訴外道央信組に対する手形金残債務元利金合計三六八九万五八八九円を完済したことについては、前記のとおり当事者間に争いがないので、この点についての判断を除く。)。

なお、本件売買代金のうち八五〇万円については、白樺は、本件白樺への仮登記を受けるのと引き換えに、昭和五六年八月二一日、吉岡及び道央緑地に対し、額面八五〇万円の約束手形を振出し交付し、それぞれの支払期日に決済した(乙七、証人吉岡、同小田、弁論の全趣旨)。

4  請求原因5については、当事者間に争いがない。

5  請求原因6についての判断は、第一事件の理由二2及び3と同様であるから、これを引用する。

そうすると、ゼニスの請求原因は、全てこれを認めることができる。

二  抗弁について

1  抗弁1については、本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。この点についての判断は、第一事件の理由三5と同様であるから、これを引用する。

2  抗弁2のうち、第一事件再抗弁1(二)(本件催告)に係る点は、当事者間に争いがない。

そうすると、本件催告による支払期限は、昭和六二年一月二六日であるところ、白樺が本件(一)売買契約の代金の支払につき、全て右催告期間内である昭和六二年一月二六日までに履行を完了したことは既に請求原因で認定済みであるから、本件解除についてはその効力が生じないことは明らかである。吉岡、道央緑地及びサンコー正貫社の右抗弁は、失当である。

三  結論

したがって、ゼニスの吉岡、道央緑地及びサンコー正貫社に対する請求は、いずれも理由がある。

第三  第三事件について

一  請求原因について

1  請求原因1及び2については、本件土地(三)が本件(一)売買契約の目的土地に含まれるとの点を除き、当事者間に争いがない。

また、本件土地(三)が本件(一)売買契約の目的土地に含まれることは、第一事件の理由三2に記載のとおりであるから、これを引用する。

2  請求原因3については、当事者間に争いがない。

3  請求原因4(一)のうち、訴外早勢が昭和五一年一二月一七日に道央緑地の訴外道央信組に対する手形借入金債務のうち四〇〇〇万円について白樺に代わって免責的債務引受をしたことは、当事者間に争いがない。そして、白樺が昭和五六年八月二〇日、本件(一)売買契約の代金のうち一億二六五〇万円の支払方法として引き受けた債務について、遅くても昭和六二年一月二六日までに全てその履行を完了したことは、第一事件の理由三3に記載のとおりであるから、これを引用する。

なお、本件売買代金のうち八五〇万円については、白樺は、本件白樺への仮登記を受けるのと引き換えに、昭和五六年八月二一日、吉岡及び道央緑地に対し、額面八五〇万円の約束手形を振出し交付し、それぞれその支払期日に決済した(乙七、証人吉岡、同小田、弁論の全趣旨)。

4  請求原因5については、当事者間に争いがない。

5  請求原因6についての判断は、第一事件の理由二2及び3と同様であるから、これを引用する。

本件(二)売買契約が商法二四五条一項一号の営業譲渡には当たらず、したがって、白樺の株主総会の特別決議も不要であることについては、第一事件の理由四に記載したとおりであるから、これを引用する。代位原因(請求原因6)に対する被告らの主張は、失当である。

そうすると、ゼニスの請求原因は、全てこれを認めることができる。

二  抗弁について

1  抗弁1については、本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。この点についての判断は、第一事件の理由三5と同様であるから、これを引用する。

2  抗弁2(二)(本件催告)は、当事者間に争いがない。

そうすると、本件催告による支払期限は、昭和六二年一月二六日であるところ、白樺が本件(一)売買契約の代金の支払につき、全て右催告期間内である昭和六二年一月二六日までに履行を完了したことは既に請求原因で認定済みであるから、本件解除についてはその効力が生じないことは明らかである。北海道興業及び本間興業の右抗弁は、失当である。

三  結論

したがって、ゼニスの北海道興業及び本間興業に対する請求は、いずれも理由がある。

第四  第四事件について

一  請求原因について

請求原因事実は、全て当事者間に争いがない。

二  抗弁について

1  抗弁1については、代金額の点を除き当事者間に争いがなく、代金額については、当事者間で当初(昭和六二年二月二六日)二億二五〇〇万円とされた(乙ロ二)が、その後、同年四月三日、一〇〇〇万円減額して二億一五〇〇万円とする旨の変更契約をしたこと(乙ロ四)を認めることができる。

2  そして、訴外小田が本件(二)売買契約を締結した当時、白樺を代表して右契約を締結する権限を有していたこと(抗弁2(一))は、第一事件の理由二3に記載のとおりであるから、これを引用する。

そうすると、ゼニスの右所有権喪失の抗弁は、理由がある。

三  再抗弁1について

本件(二)売買契約が商法二四五条一項一号の営業譲渡には当たらず、したがって、白樺の株主総会の特別決議も不要であることについては、第一事件の理由四に記載したとおりであるから、これを引用する。

白樺の再抗弁1は理由がない。

四  結論

したがって、ゼニスの抗弁は理由があり、白樺の再抗弁は失当であるから、結局、白樺のゼニスに対する請求はいずれも理由がない。

第五  (まとめ)

よって、第一事件の北海道興業の請求及び第四事件の白樺の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、第二事件および第三事件のゼニスの請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官土居葉子 裁判官菱田泰信裁判長裁判官三浦潤は転補につき署名捺印することができない。裁判官土居葉子)

別紙物件目録〈省略〉

登記目録〈省略〉

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